マシュマロテストと自制心

マシュマロ・テストという、教育関連、特に非認知能力について扱う書籍などでは必ずといって出てくる有名な心理学のテストがある。


オリジナルは1960年代に4歳児を対象にして試験者が被試験者の幼児に「目の前の1個のマシュマロを15分間食べるのを我慢したら2個あげる。」と伝え、その子が我慢できるのかをみるテスト。そしてこのテストでマシュマロを我慢できたかの可否、すなわち、この年齢で目の前の欲求を抑制して、目の前の小さな利益よりも将来の大きな利益を選ぶことと、将来の学歴や年収などのいわゆる社会的成功とよばれるものとの相関が大きかったことから一躍有名となった。


しかしその後、より大規模の幼児を対象にした試験でマシュマロを1個または2個選んだ結果よりも、家庭環境(親の年収と学歴)のほうが子供の社会的成功との相関が大きいという研究結果が発表された。つまりマシュマロを1個選んで目先の利益を取っても親の学歴が高い子の方が、マシュマロを2個選んだけれど親の学歴が低い子よりも、社会的成功に結びつきやすいということになる。この報告ではマシュマロ・テストの結果は限定的とされている。


この追試験でマシュマロ・テストの神秘性は薄れただろう。だけど、まったく無意味になったわけではない。家庭環境と子供の将来との相関関係、マシュマロ・テストはその相関の解明の橋渡しとして使える。


4歳の時点でマシュマロを1個選ぶ子と2個選ぶ子の違いはどこから生じるのかを考えてみたい。


まず、子供に試験者が伝えた約束の言葉「我慢したら2個あげる」。そもそも子供がこの言葉を信じるかどうかがテストの前提にある。普段から人の言うことが信用できない、大人の言うことと実際の行動が違うことばかりのような環境で育っていて人間に対する信頼感がないとしたら、目の前の利益は取られる前に自分で取ってしまうのが合理的な判断になる。


2つ目に、子供にストレスが溜まっていかどうか。大人でも例えば仕事が忙しく気持ちが余裕がないときは、頭の中で立ち止まって考えることなく甘いものや酒に対する欲求に抗えなくなる。幼児もこれまでに欲求が十分に満たされないで育ってストレスが過剰な場合、常に感情がそのまま出やすい状態となっている。


3つ目として、子供の早熟性、成長の早さがある。このテストは4歳という微妙な年齢だから成り立つテストだ。年齢があがるほど、先送りが得となる判断ができるようになることは間違いないだろう。年齢が上がって中高生を対象する場合はマシュマロは興味ないかもしれないので、対象をもっと大人っぽいお菓子や別のものにする必要があるかもしれないが。


マシュマロ・テストに合格するための自制心を身につける発達度合いの差はどこからくるのだろう。それは、主に親子や保育園・幼稚園での人間関係の中で、感情的になると損をしやすいという経験や、主に一人遊びの中で世界で起こる事象には何事にも因果関係、つまり原因と結果があるということを生まれてからこれまでにどれだけ肌で感じてきたかだと思う。この理解が「先送りが得」ということに結びつく。


このことは2つ目に挙げたストレスと大いに関係している。ストレスが適度な子は感情的になりにくく、集団遊びにおいて周りに合わせる余裕があって一人遊びでも根気よく試行錯誤を続けられるだろう。逆にストレス過剰の場合は泣き出したり癇癪を起こしやすく、その場合は集団行動も中断されるし一人遊びもうまく行かないと投げ出しやすいだろう。その結果、人間関係の中のルールの理解や試行錯誤の経験の積み上げが少なくなってきて、発達度合いの差に現れてくるのだろう。


まとめると、親に十分に見守れながら育った幼児は、過度なストレスがなく遊びの中で試行錯誤したり集団の中での経験を積んでいくことができる。それが先送り判断できるという早熟性に繋がる。


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