非認知能力とは健全な生活習慣と積み上げてきた経験

主に教育の分野で「非認知能力」という比較的新しい言葉がある。本のタイトルに入っているのもよく見かける。国語数学などの科目テストや知能テストなどで測れて数値で表せる認知能力に対して、簡単には測定できなくて数値化が難しい能力を表したものだ。


その非認知能力が何を表しているのかは本や人によってまちまちだ。例えば、やり抜く力、自制心(セルフコントロール)、粘り強さ、忍耐力、復元力(レジリエンス)、計画性、創造性、協調性、コミュニケーション能力、自尊心、自己肯定感など語句がちょっと調べると挙がってくる。これらを能力を全て持っているとしたら完璧人間になる。非認知能力というのは人間としての総合力そのものを指すことになる。


この非認知能力のリストを整理しておきたい。


この語句の中だと「やり抜く力」は本のタイトルにもなっているし特に有名だが、なにかをやり抜くというのは結果を出すということであり、結局は総合能力が高いというそのものになる。


自制心とは、未来の大きな利益を見据えて目先の欲求、小さな利益を我慢することだ。計画性も自制心がないと成り立たない。計画性は当初の計画その通りに実現して初めて評価される。協調性も先を見据えて自らを律して他人に合わせることだからほぼ自制に近い。


復元力(レジリエンス)とは、失敗したときにめげないで立ち上がる力のこと。これは「やり抜く力」の大部分を支える要素と言えるかもしれない。一つのプロジェクトでの諦めないで再チャレンジする力なら、これまでの人生でやり遂げてきた経験値というものが大きい。今までやり遂げてきたというのだから、今回もできるに違いないと思えるわけだ。自尊心、自己肯定感というものもこの経験値とほぼ同一で、実績のある自分を信用できるというわけだ。


結局は、非認知能力とは最初のリストから整理すると「自制心、セルフコントロール」と「復元力、レジリエンス」の2つに集約するのが適切かと考えている。この2つももう少し踏み込んでみたい。


自制心も突き詰めればその人の生活習慣に大きく依存している。自制の大きな障害になるのがストレスで、例えば忙しくてストレスが溜まると、頭では分かっていてもついつい甘いものを食べすぎてしまったりする。様々な研究から運動、食事、睡眠、すなわち生活習慣が感情、ストレス、脳の働きに大きな影響を及ぼすことがわかっている。適度な運動をしてバランスのよい食事を摂っていて睡眠も十分の理想的な生活ができていたら、突発的な衝動にも頭の中で立ち止まって対処しやすいと言って間違いない。つまり自制を働かせやすい。卵が先か鶏が先かの話になるが、生活習慣の好循環と自制の働きの良さは同じことになる。


復元力で成功の経験値の他に大事なのは、例えひとつのプロジェクトで失敗したとしても、まだ他があると思える力だ。一つのプロジェクトに自分の人生がかけているというくらい注ぎ込んでいるとしたら、失敗したときに本当にぽっきりと心が折れてしまうだろう。なので最初から失敗しても次がある、他もあると考えていることだ。受験で一つの大学だけを頭に入れて、仕事で昇進や地位を目指して頑張ってそれが叶わなかったときも同様で、最初から人生には多様な経路があって、大事なものは一つではないという考えを持っていることも復元力の大きな要素だ。

この大事なものは一つではないというのは価値観の多様性と言い換えられる。そしてそのように考えられるようになるためには、これまでに多様な価値観に触れてきた、または失敗をしてきた経験が必要なのだろう。何も失敗しないのなら何も考えを変える必要がない。価値観の幅は広がらない。つまり復元力の源は成功、失敗を含めこれまで挑戦してきた経験といえる。

まとめると、非認知能力は人間としての総合力の言い換えであって、それは健全な生活習慣と試行錯誤してきた経験の積み重ねが源になっている。