メダカの個性と価値

我が家の鉢には少なくとも4種類のメダカが混じっている。 実は2回、それぞれ別のところから譲ってもらっている。


知り合いにもらって最初に家に来ることになったのが、いわゆる「普通」のメダカたち。少なくとも3色のメダカが混じっていた。おそらく黒メダカ(原種?)、オレンジのヒメダカ、そして白メダカ。中にはぶち模様のものもいる。元の飼い主さんは混じっていることは何も気にしていないようだった。


すぐに鉢を買ってベランダに置いてメダカたちを入れてしばらく元気で死ぬこともなかったのだが、ある日半数近くが突然死した。一斉なので偶然とは思えない。なぜかそのほとんどは白メダカだった。その前の日にベランダの工事で業者の人が入ってメダカの近くで作業をしたぐらいしか思い当たらないが、原因は特定できなかった。


この最初のメダカをきっかけに私もメダカのことを少し勉強した。そして今の時代は鯉や金魚のように様々な品種改良によって生み出された美しいメダカの種類があることを知った。今の「普通」メダカたちもそのまま子孫繁栄していってほしいと願いつつ、かつそのような美しいメダカも飼ってみたいと思うようになった。


その機会は突然訪れる。息子と一緒に近所を散歩していたら、玄関先に多くの容器に多様なメダカを飼育している家があった。どれもが本やネットで見た「普通」ではない光っていたり様々な模様を持っていたりする美しい種類のものである。2人でそのメダカたちを眺めていたらすぐにその家の方と知り合いになった。どの家もメダカ増えすぎ問題があるのだろう。できるだけ頻繁に誰かに譲っているとこのことで、知り合ったばかりの私達もどれでも好きな品種を頂けることになった。


そのときは一旦帰ったが、一応妻と相談し改めてこれ以上容器を増やさない約束で、新たな種類のメダカを迎え入れることになった。改めて見せてもらって息子と相談して決めたのは「夜桜」という小さい錦鯉が部分的に光っているようなきらびやかな品種だ。ネット販売で見ると買った場合は決して安くないメダカだ。


それからしばらく葛藤の時が始まることになる。時が経った今でも正直残っている。最初にもらった「普通」メダカと新たな「高級」メダカを同居させていいのかという葛藤である。夜桜を頂いた方は当然メダカに大きなこだわりがある。種類ごとに厳格に分けて飼育している。混じって交配してしまうとその子たちは品種の特徴、美しさが失われてしまうことになる。なので他の品種と分けて飼育することを強く奨められる。当然だろう。しかし最初から容器は増やさない家の中の約束があるので実は同居しか選択肢がない。


最初の数色のメダカ達と新しい多様な輝きのメダカ達だが、一緒になった次の瞬間から何事のなかったかのように一つの群れとして暮らし始めた。割合としては半数以上が「高級」メダカだ。「普通」メダカが少数派となる。この混在の群れをじっくりと見ていくと、特に模様のない「普通」達も独自の美しさがあると思うようになった。それから葛藤は完全ではないが大分なくなってきた。そして、メダカ達は自分の色や模様などまったく気にしていない。それを見ると外見の模様などそれほど大事なことでもないとも思えてくる。これらはこの葛藤を抑えるための無意識的な正当化かもしれないが。


「高級」メダカの美しさと価値は世間の相場でだいたい決められている。個人もそれに影響されてメダカをその視点から眺めるようになる。世間の評価も大事、しかし個人の先入観のない価値観もあっておかしくない。